ここでは企業ブランディング動画制作に役立つ書籍として「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門 著者:原野守弘 クロスメディア・パブリッシング」を紹介します。特に注目してほしい内容などをピックアップし解説しています。
タイトルに「ブランディング」と入っていないので、おそらく「ブランディング」というキーワードで参考書籍を探している人には、なかなかめぐり合いにくい書籍と思われます。
しかしこの本、実はとても熱いブランディングについての書籍です。
まずブランディングとはなにか?この問い対して、簡潔に説明できるでしょうか。著者のクリエイター原野守弘氏はブランディングについて以下のように語っています。
「好きにさせる」「愛される」ことこそが、ブランディングの本質だと思っている。心を焼き焦がすほど鮮烈に、つまり感情的に記憶に残すことこそが、本当のブランディングだ。(p107)
引用元:原野守弘著「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」
(クロスメディア・パブリッシング)/107ページ
またブランディングを通じて、ユーザーがそのブランドを好きになる「ブランドロイヤリティ」について以下のように分析します。
偉大なブランドは自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る。そして、その広告が表明した「好き」に「共感」したオーディエンスが現れる。彼らはその広告を発信したブラドに行為を持ち、「連帯」しようとする。これがブランドロイヤリティの(忠誠心)の正体だ。(p62)
引用元:原野守弘著「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」
(クロスメディア・パブリッシング)/62ページ
この「偉大なブランドは自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る。」という一文はブランディングをこれからする人にとって、大きな指針となるのではないかと思います。本書の中でも3回ほど出てきています。
つまりブランディングをするのに何をすればよいのか?
それは自分についてではなく、自分が愛するものについて語れということなのです。
ブランディング関連の書籍を読み解き、様々な手法を学ばれている方も多いと思います。しかしこの書籍ほどブランディングについて「自分でもできそう」または「自分でも考えてみたい」と具体的な一歩踏み出させてしまうほどに、簡潔なメッセージでブランディングについて書かれたものはなかなかないと思います。
自社のブランディングについてこれから考えていきたい方、クリエイターとともにブランディングのあり方について企画を詰めていく方に向けたブランディングにおけるクリエイティブ制作の指針を示す本として今回ピックアップしました。
なお、著者の原野守弘氏は広告にまつわる名誉ある賞の祭典、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルに参加し、それを「たった一回、その広告をみただけで、そのブランドに対する思いが変わってしまう魔法のような体験 p39」と語っています。またご自身も2011年のカンヌ国際広告祭で金賞を受賞しています。受賞作の『森の木琴』はNTTドコモ携帯のCMですが、作品中に商品とナレーションが出てくるのは最後の最後のみ。様々な長さに切られた木材の上を木製のボールが転がることで音が出て、森の中をバッハのカンタータ 第147番「主よ、人の望みの喜びよ。」の音階が奏でられるというCMです。
なおこの本の中でも人を動かすために語るべきこととして、商品について語る前に、自社は何のために商品・サービスを提供しているかという社会的意義(パーパス)を語ることで、納得感が生まれると説明しています。なおその際に、以下の動画の内容が引用されています。
TEDの人気講義「WHYから始めよ!」のサイモン・シネックを英語で見て学ぼう※
この動画はTEDにおけるサイモン・シネックの「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」という講演です。そのなかで使われる概念がゴールデンサークルと呼ばれる三重円です。
What - How - Why。一番外側の円はWhat。これは「自分がしていること。」つまり事実。企業なら事業内容や商品のファクトをさす。Howは「どのようにしているか」ということ。つまり手法。企業なら差別化ポイントや独自のプロセスなどを指す。最後にWhy。「なぜやっているか」。つまり信念。企業で言えばパーパスやコーズといった存在意義や社会的大儀のことを指す。(利益は目的でなく、結果だと彼は断言する)
そして、普通、企業が広告をつくるときは、たいてい、What - How を語るだけで、Whyを語らないという。p43
たとえば、Appleのような強いリーダーシップを持つブランドはWhyを語り、その後How,Whatを語る。Whyから語られるから納得感が生まれるのです。
近年のブランディング動画では企業の社会的目的や存在意義など「パーパスに」ついて語られることが多くなってきました。この企業ブランディング動画でWhyを語るというのは、現在のブランディング動画での大きな潮流のようです。
本文中で何度かでてくる「偉大なブランドは自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る。」にあるように、ブランディング動画をつくりにあたり、個人の好きを語ることは出発点だとしています。
とはいえ、なぜ個人の好きを語るべきなのでしょうか?本当にそれでよいのか?という疑問が出てきます。これに対して原野氏はクリエイターや制作にかかわる人に対して映画監督のマーティン・スコセッシ※の言葉を引用しています。
「個人的」というのは、クリエイティブの世界では非常に重要で、先に述べたように映画監督のマーティン・スコセッシは、「最も個人的なことが、もっともクリエイティブなことである」といっている。p134
また以下のような原野氏の持論を展開します。
クリエイティブプロセスで重要なのは「好き」という感情だ。これはうまく言語化して説明できない、ふわりとしたものであるのだが、そのふわりとしたものの中に真実がある。p97
多くの歴史家や哲学者が、「革命は周縁から起こる」と言う。p98
珍しい習慣を持つ人々、プロダクトを本来とは異なる用途で使う人、サブカルチャーを愛する人、こうした「変わり者」「周縁の人」が、未来の新しい市場をつくりだすのだ。p100
宇宙で一番大きいのは「スキマ」である。スキマや周縁にこそ、まだ見ぬ未来があるのだ。p102
まず、「個人的な好き」から始めよう。またはクリエイターの「個人的な好き」に耳を傾けてみよう。そのちっぽけなもののむこうに、大きな未来が待っているのかもしれないのだから。 p140
どれもクリエイターにとって背中をおされるような、また何かすごいものが自分達で生み出せるのではないかと思えてくるようなメッセージです。そして最後の一文をこうしめくくっています。
世界は、「好き」が動かしているのだ。
※マーティン・スコセッシについての補足:
マーティン・スコセッシは映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)や2017年に公開された「グレイトフル・デッド」のドキュメンタリー映画『グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅』(2017)で製作総指揮を務め、ザ・バンドの解散ライブ『ラスト・ワルツ』(78)を撮ったいわば映画の巨匠です。
余談ですが、マーティン・スコセッシ新鋭監督に以下のようなアドバイスをしており、これもブランディング動画制作に役立ちそうなので紹介します。
2021年に公開されたバンド名ザ・バンドの映画『ザ・バンド』の新人監督が、40年以上前に、そのザ・バンドのライブ・ドキュメンタリー映画を取ったスコセッシにアドバイスを求めた際の記事の引用です。
「物語こそが心を動かし、感情を揺さぶるものであると彼(マーティン・スコセッシ)は考えていた。だから、『そこからそれる内容は考え直した方がいい』と助言された」とも説明し、映画を進めるために音楽をうまく使うことも指摘された。
原野守弘氏の「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」はブランディング動画をつくるにあたり、ブランディングとは何か、そしてブランディングコンテンツを作るにあたり何を語れば良いのか?についての一つの方向性を熱く、簡潔に示してくれます。
1~2時間程度で読み終えてしまえる書籍ですが、ブランディング動画を企画しようとしている人、制作しようとしている人にとって示唆に富んだ内容です。
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